453. 匂い

先日読んだ『朝日新聞』の近藤康太郎のコラムに、「猪は死臭に敏感」とあった。彼は熊本の天草でアロハシャツを着て農業をやっているのだが、畑に出たらしい。猪の嗅覚は人の2000〜8000倍!他にも鼻のいい動物といえば、象・ラット・犬・牛・馬・兎…そして意外なところではスッポン! 人では男より女の方が匂いに敏感、またイヌイットは動物臭に対する感度が高い。

「匂う(にほふ)」は元々、赤(丹)などの鮮やかな色彩が美しく映える事を現した言葉。『いろは歌』の「色は匂へど…」だ。また、「香る(かをる)」も、煙や霧が立ちこめる、気が漂うという意味だった。一方「臭い」は「朽つ」や「腐る」と同系統。

臭い食べ物といえば、スウェーデンのニシンを発酵させたシュールストレミング、韓国のエイを発酵させたホンオフェ、ニュージーランドの発酵チーズのエピキュアーチーズがベスト3。筆者は台湾の臭豆腐は無理だった…。

霊臭というのがあって、腐敗臭・ガビ臭い匂い・ドブ臭い匂い・コゲた匂い…等が、ダークサイドのもの。硫黄臭も悪魔と関連付けられる。逆に、お香・線香・白檀・香水・花・柑橘の匂い…等はライトサイドのものと言われ、様々な宗教でも邪気を祓うとされたり、瞑想や浄化の際に用いられる。また、善悪関係なく、個人の匂いである、タバコやコーヒー、香水…等の匂いもこれに含まれる。

インド神話の神ゲンダッバは、医薬や音楽の神だが、香だけを食す事から香音神尋香神もと呼ばれる。宮古島の来訪神パーントゥが付ける泥は泉(ガー)から取ってきた神聖なものだが、匂いは強烈らしい!

さて、匂いに関する妖怪は少なくない。ぬっぺふほふは死臭がするというし、古雑巾の付喪神白うねりは間違いなく臭そう…。鹿児島のケンムンも生臭いという。アイヌのオッケルイペは猛烈に臭い屁をひる。対処法はひり返す事! 一方、いい匂いのものもある。さんにゃつきは山中花のない場所で花の匂いがする現象。陸奥には天女に接吻された事から、死ぬまで口の中からいい匂いがしたという男の話が伝わる。

海外でも、アメリカのセミノール族に伝わるフヴッコカプコは、凄まじい悪臭を放ちこれを嗅ぐと病になるという。ロバ大の狼のような姿で、長い耳と馬のような尾を持つ。古代ローマの博物学者プリニウスの『博物誌』に書かれたボナコンは、臭い糞を大量にし、これに触れたものは一瞬のうちに焼け死ぬとある。姿は馬のたてがみと、内に反った太い角のある牛。同じく古代ローマのメフィティスは、悪臭と毒ガスの女神。火山ガスの神格化と思われる。その名はスカンクの学名に用いられている。

UMAにもスカンクエイプがいる。フロリダ州のエヴァーグレーズ国立公園で19世紀頃から目撃されている大型の獣人タイプ。卵とカビチーズとヤギの糞をまぜたような刺激臭を纏う! ルイジアナ州のハニーアイランドスワンプモンスターも獣人系で腐敗臭がするという。ミシガン州のバウンドマンは巨大な猟犬を連れた大男で、こちらは硫黄臭。その他ビッグフットサスクワッチイエティ…等も強烈な体臭がすると言われる。

さて、筆者の記憶に残るある場所の匂いがある。そこは壁に囲まれた何もない広場なのだが、随分昔に屠殺場があった。確実に匂いが残り続けており匂いの幽霊という言葉が浮かんだ…。嗅いでみたい匂いもある。それは、宇宙のそれだ。焦げた鉄のようでもあり、ラズベリーのようでもあるという。これは宇宙空間に漂う多環芳香族炭化水素(PAH)や、ギ酸エチルの匂いらしい。

最後に問題です。絵に描いた鼻は誰の鼻でしょう? 正解は2016年のTVドラマ『スニッファー』の阿部寛でした。異常な嗅覚を持つ主人公が、現場に残されたニオイという見えない証拠を嗅ぎわけ、真相を究明していくという内容。これ実はウクライナ発のドラマがもとになっていて、皮肉にも当時ロシアで過去5年で最高の視聴率だったそうだ…。

そういえば、小学生の検査で「君は耳と鼻が非常にいい」と言われた事をずっと覚えている。聴覚はサイボーグ003みたいでカッコいいな〜! と嬉しくなったものだが、今になって嗅覚なんてどうやって検査したんだろう…と、不思議に思う。

木犀の香を辿りどり路地に入り風来松