441. 靴

先日の高橋源一郎のラジオ『飛ぶ教室』のゲストが〈シューフィッター〉だった。その名の通り、その人に合った靴を提案する靴の専門家…いやはや、いろんな職業があるもんだ…。

物語で、靴といえば『シンデレラ』のガラスの靴。少し前に〈シンデレラフィット〉と言う言葉を初めて知ったのだが、アウトドアや収納でピッタリはまる事を言うらしい。

『シンデレラ』と同様、フランスのシャルル・ペローに『長ぐつをはいた猫』もある。この猫の名はペロ。かつて1980年代に松山市にあった映画館〈国際ビル〉(〈シネマサンシャイン〉の前身)の1階にあった〈アニメポリス・ペロ〉(東映のアニメショップ)のキャラクターとして、筆者の記憶には焼き付けられている。ちょうどこの頃、〈ジブリ〉誕生のきっかけとなった『風の谷のナウシカ』が公開。ナウシカグッズを探して、少年だった筆者もよくここに通った。当時はまだオタク等という言葉は無く、この大人アニメーション映画は洋楽と同じくらいハイカラで高尚な存在でさえあった。一方で、ナウシカは少年達のアイドル的存在にもなっていた。

あ…靴でしたね…。

アーネスト・ヘミングウェイの超短編には『For sale: baby shoes, never worn』というのがあり、これヘミングウェイが6単語でストーリーができるかという賭けで作ったと言われる(アーサー・C・クラークの手紙にも書かれている)。が、この話どうも眉唾…。

日本では、野口雨情作曲の『赤い靴』がある。宣教師夫婦の養女になるも結核で亡くなった少女がモデルというのが定説ではあるが、これについても、昔から何かと論争になっている。

アンデルセンにも同名の童話がある。こちらは主人公カーレーンが履いた、死ぬまで踊り続ける呪いのかかった赤い靴。なんと、首切り役人に両足を切断してもらう…! ひ〜…!!

村上春樹にも『踊る小人』があるが、小人精霊達は、とかく踊りが好きらしい。グリム兄弟の『小人の靴屋』の小人のモデル、アイルランドのレプラコーンも踊り好きな仲間の為に靴を作り続けている。前にも書いたが、この話では靴を作ってもらった老夫婦が裸の小人達に、服と靴をプレゼントしたところ、彼らはいなくなってしまう。ただし、靴屋夫婦はその後も幸せに暮らしましたとさ。

日本の妖怪では、靴…ではないが、やはり化け草履。古くなり捨てられた草履の付喪神。手足の生えた大きな草履に一つ目。水木サンの『妖怪図鑑』には、『「カラリン、コロリン、なまぐ三つに歯二ん枚」と歌った』とある。これは佐々木喜善の『聴耳草子』にある妖怪が元と言われているが、歯二枚というからには草履と言うより下駄だろう…。

『百鬼夜行絵巻』にも、手足のある藁草履の妖怪が描かれている。鳥山石燕の『百器徒然袋』の沓頬(くつつら)は頭に沓を載せた姿。中国の諺「瓜田に履(くつ)を入れず」が元か。土佐光起『百鬼夜行之圖』の靴の沓(かのくつ)は、平安時代以降の貴族や武官が束帯(正装)の際に履いた革製のブーツの事だが、ここではこれを耳に掛けた狐のような妖怪として登場。

各地の言い伝えでは下駄に関するものが多い。宮城県寒風澤では、古くなり捨てられた下駄が人に化けたという話がある。岡山では、新しい下駄を下ろす時「酒にあえ餅にあえ」と唱える。また、大晦日の晩、外に下駄を出すと魔物に印をつけられると言われる。東京・静岡でも12/8・2/8に一つ目鬼疾病神が下駄に病の印を付けると言う。愛媛・徳島では夜に下駄を下ろすとに、長野・岐阜・千葉・大阪ではに化かされるといい、一方で和歌山では夜でなく昼。これらを防ぐには、下駄の裏を焼いたり炭をつければよいという。また、愛知では下駄と草履を片方ずつ履くとに化かされると伝わる。

ヨーロッパでは14〜20世紀にかけて、教会や家の中の境界(壁の中・天井裏・床下・煙突)等に靴を隠すという習慣があり、今でも発見される事がある(イギリスでは3000足以上が)。これは家を悪霊から守るための物だと考えられている。靴は持ち主の魂を宿しているため襲ってきた悪霊を封じ込めるといわれる。

靴の神となると、日本では唯一、東京都台東区に〈玉姫稲荷〉が。ギリシャ神話の伝令の神ヘルメースが履くタラリアは翼の生えたサンダルだ。北欧神話のオーディンと巨人グリーズの子ヴィザール強い靴を履く。母親が作ったもので、人が靴を作る際に捨てた三角の皮の端切れが原料なのだが鉄より硬く羽根のように軽い。ヴィザールはこれで巨狼フェンリルを倒し、父の仇を討った。

最後に悪魔。よく見かける悪魔の靴は先が尖っていてクルリと巻き上がったアレ。

グリム童話には『踊ってすり切れた靴』がある。寝室で寝ているはずの12人のお姫様の靴が毎晩ボロボロになっており、魔法を使う若者が後をつけてみると、王子に化けた悪魔と一晩中踊っていたという話。

さて、最後は絵にも描いた実在する悪魔の靴について。2019年カントリーラッパーのリル・ナズ(全米シングルチャート19週連続1位!)と、ニューヨークのアート集団〈MSCHF〉がプロデュースしたナイキのエアマックスをもとに作った〈サタンシューズ〉。666足限定で、逆五芒星のチャーム、〈LUKE10:18〉(ルカによる福音書10章18=サタンの堕天)の刻印、ソールのエア部分には人間の血が一滴入っているという(ただ、これスタッフの血ってのがなぁ…)。価格は11万円ながら1分で完売! ただ、ナイキには批判が出てボイコットにまで発展しかけた為、無関係だとの声明を出した。それ以前にも同じように〈ジーザスシューズ(ヨルダン川の聖水入り)〉が出た時は黙認だったのに…。

一緒に描いたのは、筆者の持ち物。同じくナイキのエアマックス〈死者の日バージョン〉。普段はネットでは古本くらいしか買わないが、これはどうしても手に入らず、スニーカー専門のネット通販で手に入れた。死者の日のアレブリヘや、マリーゴールドのデザインは、お気に入り(本物はもっとイカしているのだが上手く描けず…)!

句は、料理愛好家の平野レミが父親から贈られたという「風強ければ神さまは靴のかかとに棲み給う」から。

北風や神は踵に棲み給う風来松